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Beauty Source キレイの魔法

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エリザベート1848『祝杯』

エリザベート 1848
『祝杯』

ジェラールは面白くて素敵だ。
仮面をつけていて、顔の半分が歪んでいるのを気にしているようだけど、
そんなこと私は平気。
だって、お父様のサーカス団には、もっといろいろな人たちがいるから、
見慣れてるんだもの。
歌も、お父様より断然、上手。声もとってもよくて、聞き惚れてしまう。
そのうえ、本当にいろいろなことを知ってるの。
ルィーズ夫人に出された宿題は、歴史から地理からラテン語から、何だって解いてしまうし、
野原で転んで怪我をしたときに痛みを我慢する方法とか、
ピアノを上手く弾いたように見せる方法とか。
いろいろなお薬の作り方も知っているみたいよ。

グスタフも好き。
静かで、めったにしゃべらないけれど、いろいろな国の幻想物語を聞かせてくれる。
妖精たちの助けを借りて、小さい子ども達がいろいろな冒険をするの。
ただの女の子が女王になったり、泣き虫の男の子が英雄になったり。
私だって妖精の力があれば、もっと綺麗になれるかもなんて思える。
ヴァイオリンの演奏を交えながら話してくれることもあって、まるで吟遊詩人みたい。
ピアノがある部屋では、ジェラールも一緒になって歌ったり弾いたりしてくれるから、
ちょっとした宮廷オペラでも見ているみたいなの。

もうひとつ、三人の気が合うのは、犬が大好きっていうこと。
大きな犬がお城にはたくさんいて、一日中遊んでいても飽きないくらい。
ジェラールは、昔飼っていた犬がいたんですって。
ちょうど子犬が生まれたのをとっても羨ましそうに見ていたから、
一匹名付け親になってもらったら、とても嬉しそうにしていたわ。
サシャって、名前を付けてた。

「ねえ、ジェラール、グスタフ、この返事、どう書いたらいいと思う?」
カールからの手紙がまた来て、私はちょっぴりうんざりしながら二人に見せた。
この頃、革命っていうものが流行っていて、ご親戚の方々もあちこちに避難されているの。
フランツ・ヨーゼフ殿下と弟殿下のカール・ルードヴィヒ、それに叔母様のゾフィー大公女も
インスブルグの王宮にいらしたことがあって、私とお姉様はお母様と一緒に機嫌伺いに行ったのね。
カールとはちょっとお話して、お花や果物をプレゼントしてもらったり。
こちらに帰ってからは手紙やアクセサリーを送ってくれるのだけど。
ねえ、恋しいっていったい、どういうこと?

「いただいた厚意への礼を表せばよいのではありませんか?」グスタフは言う。
「シシーがその王子を好きでないなら、余分なことは書かずにね。」とジェラール。
「好きじゃないってわけではないの。ただ、退屈なの。
カールはいい人だけど趣味が合わなくて、馬や犬のお話ができないし。
いっそ、あなたたちが王子だったらよかったと思うわ。」
「それは真に光栄。」
「ジェラール、ふざけているわけじゃないのよ。それにね、それに私、どうせならうんと綺麗になって・・・。」
「10歳というお年にしては、今でも充分、お美しいと思いますよ。」
「ありがとう、グスタフ。あなたって言葉が上手ね。
だけど私ね、お姉様よりもっと、そう欧州一、って言われるくらい美しくなって、それから、
できれば妖精の国の女王になりたいの。」
私の途方もない思いを聞いても、二人は笑わなかった。

その夜、私はお父様と一緒に、ジェラールのレビューを見ることに。
ここにくる前には、これを見せながら旅をしていたんですって。
「エリザベート様、マクシミリアン様、この石にご注目を。」
グスタフも、私たちと一緒にジェラールの手元をじっと見る。
たちまち私は、ふんわりとした雲の上にのっているような心地になった。
王宮で、ほんのちょっとシャンパンを口にしたときのように。
だってほら、楽しげな、何かを祝福するような歌も聞こえてきたじゃない?


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